甲状腺の濾胞細胞にはTSH受容体があり、下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)は、この受容体と結びつくことで、甲状腺ホルモン(T3、T4)をつくらせる働きをします。
ところが、甲状腺に自己免疫反応が起こり、TSH受容体に対する自己抗体(抗TSH受容体抗体、TRAb)ができると、このTRAbがTSHのかわりにTSH受容体と結合して刺激するため、甲状腺ホルモンがどんどんつくられてしまいます(バセドウ病)。しかし、抗甲状腺薬で長期間治療すると、このTRAbの数値は下がってきて、やがてなくなります。この状態になると、バセドウ病は治っていると判断され、薬は中止できます。

1 抗TSH受容体抗体(TRAb)を測定する目的

甲状腺ホルモンが過剰になる原因には、バセドウ病だけでなく無痛性甲状腺炎もあります。両者は、経過や治療方針が大きく異なりますので、鑑別する必要があります。そこでTRAbがあるかどうかを判定し、陽性であればバセドウ病と診断します。

  • TRAbが多ければ、バセドウ病の程度が強いといえます。
  • 抗甲状腺薬で治療している間は、TRAbの数値が下がっているかどうか(薬の効果が出ているかどうか)を定期的に調べる必要があります。
  • TRAbが少なくなれば、バセドウ病は寛解(かんかい)(治っている状態)となり、薬を中止できる目安となります。
  • TRAbが多くなっている場合は、バセドウ病再発の目安となります。
  • 母体のTRAbが多いと、胎児や新生児にバセドウ病が起こる可能性を知る目安となります。

2 甲状腺刺激阻害抗体(甲状腺ブロッキング抗体 TSBAb)

甲状腺刺激阻害抗体(TSBAb)は、TSHがTSH受容体と結合したり、TRAbがTSH受容体と結合するのを阻害します。つまり、甲状腺ホルモンをつくらせないようにする抗体ですので、TSBAbがあると、バセドウ病とは逆に、甲状腺機能低下症となります。TSBAbによって、一部の原発性甲状腺機能低下症を診断したり、新生児の一過性甲状腺機能低下症の予測ができます。

3 甲状腺刺激抗体(TSAb)

TSAbは、TRAbとは測定方法が異なります。

  • TSAbがあると、バセドウ病と診断できます。
  • バセドウ病の甲状腺機能とは、あまり関係がありません。
  • バセドウ病眼症が悪化しやすいかどうかの目安になります。
  • TSAbが1000以上になると、眼症への影響が出やすくなります。

4 TSAbとTSBAbの両方を持っている人がいます。

このような人は、TSAb活性からTSBAb活性に、またはTSBAb活性からTSAb活性へと変化することがあります。それにともない、甲状腺機能亢進症が低下症になったり、または甲状腺機能低下症が機能亢進症になったりします。

以上のような自己抗体測定を、甲状腺ホルモンや機能検査などと組み合わせて、総合的に甲状腺疾患の原因や状態を把握する必要があります。

医療法人社団金地病院