通常の炎症とは違い自己免疫による炎症

橋本病は慢性甲状腺炎ともいい、その名の通り、甲状腺に慢性の炎症が起こる病気です。
通常、炎症は、体に侵入してきた細菌やウイルスなどに対して体が起こす防御反応で、発熱、はれ、痛みなどの症状が出ることをいいます。
しかし、橋本病は、細菌やウイルスの感染とは関係なく、甲状腺に対する自己抗体ができて、その自己抗体が甲状腺だけを徐々に破壊していく、自己免疫による病気です。ですから、橋本病の炎症には、通常の炎症にともなう発熱や痛みなどはありません。

橋本病であっても、70%の人には症状が出ない

血液の中に自己抗体が存在していても、甲状腺が本来の甲状腺機能が保たれている限りは、特に症状では出てきません。
甲状腺機能が正常値の橋本病は、全体の70%を占めます。病気があることに気づかないままに過ごしている人は多いと考えられます。

甲状腺の破壊が進むとホルモン不足で機能低下症に

甲状腺は、リンパ球(免疫の働きの中心。抗体をつくる)の浸潤が進むと、炎症が起こって組織が破壊され「慢性甲状腺炎」の状態になります。
すると、下垂体からの甲状腺刺激ホルモン(TSH)が増え、甲状腺に対してホルモンをつくるように促します。その刺激を受けて甲状腺が働きますので、ホルモン量はあまり減りません。この段階では、まだ機能低下症の症状はあらわれません。しかし、TSHの刺激とリンパ球浸潤などにより、甲状腺の全体はびまん性にかたく、大きくなってきます。
そして、甲状腺の破壊がさらに進むと、甲状腺の働きが落ちて、ホルモンの合成・分泌ができなくなります。そのため、血液中のホルモンが不足して、機能低下症のさまざまな症状があらわれてくるようになります。
橋本病は、このようなプロセスをたどりますが、しかしすべての人がこうなるわけではなく、機能低下症に至る人は一部です。

MEMO

  • 約100年前に橋本博士が発表

    橋本病という病名は、1912年(大正元年)に、この病気について初めて論文を発表した九州大学の橋本策(はかる)博士の名にちなんだものです。日本人の名前がついた病気としてはもっとも有名で、世界中どこでも「Hashimoto’s disease」で通じます。この名のために日本特有の病気と思われがちですが、欧米でも非常に多く、米国では50歳代の10人に1人、70歳代の5人に1人は甲状腺機能低下症傾向が見られると報告されています。

医療法人社団金地病院