ターゲットの違いで逆の症状があらわれる

橋本病は、甲状腺機能低下症を代表する病気です。バセドウ病と同じく、甲状腺だけを標的にする自己免疫反応で起こります。
甲状腺だけで起こる同じ自己免疫疾患が、一方では機能が亢進し、もう一方では低下するのはなぜなのか、しくみを見てみましょう。

●バセドウ病では、脳からの指示を受け取る受容体が標的になる

バセドウ病の場合は、甲状腺の濾胞(ろほう)細胞にある甲状腺刺激ホルモン(TSH)の受容体が自己免疫の標的になります。
この受容体を異物とまちがえて排除する自己抗体(TRAb)ができ、TSHにかわって甲状腺のTSH受容体を常に刺激するのです。そのためホルモン量の調節ができなくなり、ホルモンが過剰になって甲状腺機能亢進症を起こすわけです。

●橋本病では、甲状腺細胞にあるたんぱく質が標的になる

橋本病の場合は、甲状腺の細胞内にあるたんぱく成分が、自己免疫の標的となります。
甲状腺内のサイログロブリンやペルオキシダーゼといった、たんぱく質に対するそれぞれの自己抗体(TgAbやTPOAb)ができ、甲状腺だけを破壊するのです。
自己抗体を持った甲状腺は、じわじわと慢性の炎症を起こし、少しずつ細胞が傷ついて壊れていきます。
甲状腺は、いきなり甲状腺ホルモンの合成・分泌が止まることはありません。しかし炎症が進むうち、甲状腺細胞の破壊のためにホルモンがつくられなくなり、徐々に機能低下症の症状があらわれてきます。
自己免疫が、バセドウ病では甲状腺を刺激するように働き、橋本病では破壊するように働くわけですが、なぜこのような違いが起こるのか、その理由はいまだによくわかっていません。
しかし、同じ甲状腺自己免疫疾患のバセドウ病の患者さんは、初めからすでに、橋本病であるTgAb、TPOAbの自己抗体の両方か、そのどちらかを持っている人がほとんどです。バセドウ病が寛解(かんかい)しても、25年後には、その25%の人が甲状腺機能低下症になってきます。

●体質的には共通の遺伝性因子が考えられる?

いずれにしても、橋本病とバセドウ病では、自己免疫の働き方が異なり、症状も逆なものがあらわれます。ところが病気の背景には、共通の遺伝性の因子や環境因子があるのではないかと考えられているのです。
橋本病の患者さんには、血縁者にバセドウ病や橋本病の人がいるケースがよく見られます。家計に甲状腺疾患の人が多いということは、なりやすい体質があるといえます。
体質はあっても、症状があらわれにくいため、気がつかないままでいるケースも多いと思われます。
橋本病の男女比は1:10~20と圧倒的に女性が多く、成人女性の30人に1人の高頻度に見られます。甲状腺疾患の家族がいる人(特に女性)は、たとえ症状がなくても、妊娠時や、40歳を過ぎたら甲状腺の機能検査を受けておくことをおすすめします。

医療法人社団金地病院