甲状腺切除とリンパ節郭清が甲状腺悪性腫瘍手術の基本形

甲状腺悪性腫瘍、中でも乳頭がんのような進行が遅いがんは、1cm以下の微小なものなら、あえて手術を急がず経過観察をつづければよい、という意見があります。
しかし、微小がんのすべてがおとなしいがんとは限りません。悪性度が高いがんもあるのですが、確実に見つける方法はまだありません。
乳頭がんの治療法として、いまのところ手術が最善の方法です。
甲状腺悪性腫瘍が存在している甲状腺内の場所や広がり、大きさや年齢などから、切除する範囲がそれぞれ違います。
甲状腺の片葉や峡部を切り取る「葉(よう)切除、または峡葉切除」、甲状腺の大半を取る「準全摘(じゅんぜんてき)」(副甲状腺や反回神経を残すため1g以下の甲状腺にする)、甲状腺のすべてを切除する「全摘」があります。
また、転移の可能性を考慮して、周囲のリンパ節を脂肪組織ごと摘出する「頸部(けいぶ)リンパ節郭清(かくせい)」を行います。甲状腺悪性腫瘍の90%は、ゆっくり進行しますので、たとえリンパ節に転移していても、多くは取り切ってしまいます。

●主に手術後に薬を服用

手術の前に、甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)を飲み、腫瘍が大きくなるのを抑える場合もありますが、多くは手術後に、ホルモン不足を補ったり、再発を防ぐために服用します。
なお、甲状腺を全摘した場合は、甲状腺ホルモンがつくれなくなりますので、一生、甲状腺ホルモン剤を服用することになります。

遠隔転移には「アイソトープ療法」

乳頭がんと濾胞(ろほう)がんは、どちらも甲状腺ホルモンをつくる濾胞細胞が、がん化したものです。
濾胞細胞にはヨウ素を取り込む性質があるため、転移したがん細胞にも、この性質が残っていることがあります。この性質を利用するのが「放射線ヨウ素(アイソトープ)療法」です。
全摘手術のあとに、アイソトープ(131I)のカプセルを飲むと、アイソトープが転移巣に集まり、ベータ線を出して甲状腺の内部からがん細胞を破壊します。
ベータ線は、飛ぶ距離が短いため、まわりの組織に悪い影響はおよびません。
肺や骨など、遠隔転移の多い濾胞がんや乳頭がんの再発治療としても効果がありますが、転移巣にヨウ素を取り込む力がない場合は、アイソトープ療法の効果は期待できません。また、髄様がんや未分化がんは、ヨウ素を取り込む力がありません。

手術で取り切れないがんには「放射線」や「抗がん剤」

放射線外照射療法や抗がん剤治療は、がんの治療にはよく行われますが、甲状腺悪性腫瘍には効果が期待できないため、通常はほとんど行われません。
ただし、未分化のがん治療には使われます。また、乳頭がんや濾胞がんが進行し、ほかに治療法がない場合にも使われることがあります。
未分化がんは、進行が非常に速く、手術をしてもがん細胞を取り切れない場合が多く、放射線照射と抗がん剤治療を組み合わせた治療となりますが、残念ながら治療効果は期待できません。また、悪性リンパ腫も、手術ではなく、放射線照射と抗がん剤を組み合わせる治療がもっとも適しています。

手術後も、年に1回は定期検査(エコー検査や細胞診)を

甲状腺悪性腫瘍の種類別治療法
  治療法 治療する場合の注意ポイント
乳頭がん ・手術(甲状腺準および全摘+頸部リンパ節郭清術)
・遠隔転移にはアイソトープ大量療法
一般的に、乳頭がんは進行が遅く、根治的な治療が可能な場合が多い。近くのリンパ節への転移は多いが、遠隔部位への転移は少ない。肺などの転移巣には131Iのアイソトープ大量投与による内照射が有効。
濾胞がん ・手術(甲状腺全摘)
・遠隔転移にはアイソトープ大量療法
原発巣が小さい場合でも、肺や骨などへ遠隔転移することがある。131Iのアイソトープ大量投与による内照射が有効。
髄様がん ・手術(甲状腺全摘+頸部リンパ節郭清術) 遺伝性の場合は、甲状腺の両葉にがんが発生するため、全摘術を行う。
未分化がん ・放射線照射療法
・手術(可能なら)
・抗がん剤療法
進行が非常に早く、手術で取り切るのは不可能な場合が多い。周囲の組織への浸潤も強いため、手術と放射線照射や抗がん剤を組み合わせる。
悪性リンパ腫 ・放射線照射療法
・抗がん剤療法
放射線照射と抗がん剤を組み合わせる方法が主流。

MEMO

  • 治療後の生存率

    甲状腺悪性腫瘍のほとんどは、治療がよく効く、予後のよいがんです。
    手術後の15年生存率を見ると、乳頭がんが95%、濾胞がん93%、髄様がん90%となっています(甲状腺専門病院の例)。
    つまり、未分化がんを除けば、甲状腺悪性腫瘍はいずれも15年生存率が90%を超える、悪性度の低いがんなのです。

医療法人社団金地病院