激しいエネルギー消費が多様な症状を起こす

甲状腺ホルモンは、全身の新陳代謝を活発にし、元気にするホルモンです。そのため、このホルモンが過剰になるバセドウ病では、体が常に運動しているような状態になり、さまざまな臓器に負担がかかってきて、全身にいろいろな症状が出ます。
しかし、見かけは元気そうに見えるため、まわりから病気であることが理解されなかったり、患者自身が気づかないこともあります。

心臓が働きすぎて起こる頻脈、動悸、高血圧など

頻脈(ひんみゃく)や動悸(どうき)は、バセドウ病の患者さんがもっとも多く訴える症状の一つです。

●動悸、頻脈

いつも運動をしているように、心臓がドキドキしたり(動悸)、脈が速くなってしまいます(頻脈)。

●不整脈

心臓が不規則に収縮する心房細動(しんぼうさいどう)という不整脈を起こすことがあります。そして、心臓が働き疲れて、心不全になり、肺に水がたまったり、下肢(かし)がむくんできます。

●高血圧

血圧が上がることがあります。ただし、バセドウ病では最高血圧は高くなりますが、最低血圧はむしろ下がります。最高血圧と最低血圧の差が大きくなるのが特徴です。

疲れやすくなる、やせてくる

甲状腺機能が多くなると、体中の細胞が必要以上にエネルギーを消費します。

●疲れやすくなる

年齢、性別にかかわらず、多くの人が訴える症状です。バセドウ病になると、く体力を消耗するため、疲労感が激しいのです。

●やせる、あるいは太る

カロリーを消費するため、多くの人が食欲が亢進(こうしん)しますが、食べても食べてもむしろやせていきます。ただし、中には太る人もいます。食欲があるため、体が消費する以上に食べてしまうからです。肥満は、若い女性に多く見られる傾向です。
男性やお年寄りには、太る人はほとんど見られません。

●暑がりになる、汗をかく

代謝が高まって、体内ではいつもエネルギーが燃え、ほてった状態になります。体内の発熱量が多いため基礎体温が上がり、微熱(37~38度)が出る人もいます。暑がりになり、汗もたくさんかきます。こういった状態では、特に夏の暑さは身にこたえ、クーラーの前から離れられなくなります。

消化管にも影響し、下痢をする、血糖値が上がる

●下痢

甲状腺ホルモンが多くなると、消化管の働きが活発になり、食事するたびに、トイレに通います。

●血糖値の上昇

食べものの栄養素が、消化管から吸収されるスピードが速くなります。一時的に血糖値が上がるため、糖尿病とまちがえられやすくなります。

筋肉や骨など、運動期間にも影響

●筋力の低下

バセドウ病になると、筋肉が弱くなります。特に、おしりや太もも、背中などの大きな筋肉の力が弱くなり、しゃがみ立ちしにくくなります。

●骨粗しょう症

過剰な甲状腺ホルモンが、骨吸収と骨形成を促すため、骨量が低下して骨粗しょう症になりやすくなります。

●手足のふるえ

手足がこまかくふるえる症状で、バセドウ病患者の70~80%に見られ、手がふるえるため、書きにくくなります。

皮膚、毛髪、爪などにあらわれる症状

バセドウ病では、皮膚や毛髪にも特徴的な症状があらわれます。

●かゆみ、湿疹

皮膚の症状の中では、かゆみがもっとも多く、40~50%に見られ、皮膚が過敏になります。湿疹も30%ほどの人にもあらわれます。

●色素沈着

皮膚が、日焼けをしたように黒くなります。逆に、皮膚のメラニン細胞がなくなり、白い斑点のような白斑(はくはん)ができることもあります。

●脱毛

毛が細く赤くなり、脱毛(だつもう)が起こることがあります。ハゲてしまうと心配する人もいますが、治療が進めば、いずれ元に戻ります。

●爪の剥離や変形

甲状腺ホルモンの過剰な分泌で、爪の伸びが早くなり、ふちがギザギザになったり、爪と26:爪床の間がはがれる爪剥離(つめはくり)、爪がスプーンのような形に変形するスプーン爪などが起こることもあります。

月経不順になっても、排卵はなくならない

バセドウ病の女性患者の20~30%が、何らかの月経異常を起こします。過剰な甲状腺ホルモンが、卵巣機能や女性ホルモンに影響し、月経のリズムを乱すのです。また、月経が不順になったり、周期が長くなることもあります。ときには、無月経になることもありますが、排卵がなくなることはめったにありません。

精神や行動面にも影響しイライラや集中力の低下など

バセドウ病になると、体だけでなく精神や行動面にも影響があらわれます。

●イライラ感

精神がたかぶって、興奮しやすくなります。イライラ感がつのり、短気になって、性格が変わったように見えることもあります。

●早口

せかせかとした気持ちが話し方にもあらわれ、早口になります。

●落ち着きがない

新陳代謝が高まり、活動的になりますが、むしろそわそわと落ち着きがなく、集中力がなくなります。

●学力の低下

子どもの場合は、身長が伸びやすく、精神や情緒、行動面に影響が強く出ます。集中できず、落ち着きがなくなるので、学力が低下し、協調性がないといわれたり、LD(学習障害)とまちがえられることもあります。

●周期性四肢マヒ

東洋人の男性に多く、女性は非常にまれですが、甲状腺機能が高いときに、突然に四肢(しし)(特に下肢(かし))の筋肉が数時間まったく動かせなくなります。甘いものを過食したあとに出やすく、血液中のカリウムが減るためだと考えられています。

医療法人社団金地病院