甲状腺ホルモンの合成を抑え、TSHや甲状腺自己抗体を正常に戻す

日本でのバセドウ病の治療は、まず抗甲状腺薬による薬物療法が第一選択となります。
抗甲状腺薬は、甲状腺ホルモンの合成を抑える薬で、過剰な甲状腺ホルモンをそれ以上つくらないようにして、ホルモンバランスを改善します。
甲状腺ホルモンの量が正常になるにつれ、少なくなっていた甲状腺刺激ホルモン(TSH)が増え、自己抗体(TRAb)の値も正常の範囲に戻ってきます。
薬による治療は、きちんと飲みつづければ、約2カ月で症状が軽くなり、元気に過ごせるようになります。
抗甲状腺薬は、量を守って忘れずに飲んでいれば、まず効かないことはありません。甲状腺ホルモンやTSHの数値が正常になれば、抗甲状腺薬を減量し、2日に1回の服用までになります。そして、バセドウ病の病因自己抗体であるTRAbが下がっていれば、ほぼ寛解(かんかい)(ほぼ治っている状態)と判断され、服薬をやめることもできます。
ただし、効果のあらわれ方は人によって差があり、服薬期間がどのくらい必要かを予測することはむずかしいといえます。

重い副作用が出たときは薬を中止し、医師を受診

抗甲状腺薬の副作用は、服用を始めて5日後から3カ月以内に出ることが多く、場合によっては数年後にあらわれることもあります。
抗甲状腺薬は、発売されてから、50年以上たっていますので、副作用についての研究も進んでいます。医師の指示を守り、注意しながら服用すれば、決してこわい薬ではありません。副作用の症状があらわれた場合は、必ず医師に相談してください。

抗甲状腺薬の副作用

●突然の高熱、のどの痛み、体がだるい▶白血球減少症(顆粒球減少症、無顆粒球症)

血液中の白血球の中の顆粒球(かりゅうきゅう)が減ったり、なくなったりする副作用で、細菌への抵抗力が弱まり、さまざまな感染症にかかりやすくなります。顆粒球減少症(300~500人に1人程度の割合で起こる)は、カゼに似た症状のため見過ごしがちですが、抗甲状腺薬を飲みつづけると、生命にかかわり非常に危険です。すぐ服薬を中止し、医師を受診してください。

●白目が黄色い、尿が濃い、食欲がない▶肝機能障害

バセドウ病のために、すでに肝機能が悪くなっている人もいますが、抗甲状腺薬によって肝機能障害が起こることがあります。

●発疹、かゆみ▶じんま疹

かゆみは、バセドウ病によっても起こりますが、抗甲状腺薬の副作用で起こることがあります。

●筋肉のつれ、こむらがえり

抗甲状腺薬の効果が出てくる服用初期に起こることがあります。薬の量を調整する必要がありますので、医師に伝えてください。

●発熱、血尿、たんぱく尿▶血管炎症候群

服用初期ではなく、数カ月から数年にわたって服用をつづけている場合、ごくまれにあらわれることがあります。ひじ、ひざの関節に痛みが出たり、尿の色が濃くなったら、医師を受診してください。

抗甲状腺薬の飲み方

  • 初期は十分な量を飲み、その後徐々に減らしていき、検査数値が正常値になっても、しばらくは一定量(維持量)を飲みつづける方法が一般的です。
  • MMIの場合、フリーT4の数値の高さによって1日3~6錠(15~30mg)から始めます。
  • 維持量の時期になると、1日に1錠、さらに2日に1錠となります。
  • 服用中は、定期的に血液検査をして甲状腺ホルモン濃度をチェックし、薬の量を調整します。
  • 2種類の薬(MMIとPTU)に大きな違いはありませんが、MMIのほうが、効果が確実で、副作用が少ないため、初めに使われる頻度が高くなっています。
  • 妊娠を希望する人や授乳中の人は、PTUを選択します。
  • 医師の指示通りの量をきちんと服用します。不規則な服用をすると、副作用があらわれやすくなります。
  • 抗甲状腺薬は、ほかの薬といっしょに飲んでもかまいません。
  • タバコは、眼症を悪化させ、眼症の治療や抗甲状腺薬の効きに悪影響を与えるので、すぐ禁煙が必要です。

抗甲状腺薬の効果のあらわれ方

効果のあらわれ方には個人差があります。ただし、大まかな目処(めど)はあります。

抗甲状腺薬の服用について

  • 1服用開始

    徐々に自覚症状が軽くなってきますが、発熱などの薬の副作用に注意してください。

  • 2約2カ月まで

    血液中の甲状腺ホルモン濃度が正常値の範囲に入るまでに、約2カ月かかります。甲状腺ホルモンは、2カ月分ほど先につくられ、甲状腺内にストックされていますので、そのストック分がなくなるまで約2カ月かかるのです。
    そして、服用開始から約2カ月間は薬の副作用チェックのため、必ず2週間に1回採血して白血球の検査をする必要があります。

  • 33カ月以内に

    副作用は、服用開始後3カ月以内に出ることが多いのですが、数年後にあらわれることもあります。

  • 43~4カ月くらいすると

    遅い人でも、服用後3~4カ月で甲状腺ホルモン濃度が正常になり、つらい症状が消失します。運動や抜歯などもできるようになります。

  • 5ゆっくり減量する時期

    甲状腺ホルモンや甲状腺刺激ホルモン(TSH)の値を検査しながら薬を調整します。自己抗体(TRAb)の値も少しずつ下がってきます。

  • 61~3年で維持量になる

    ホルモンが正常値に入り、症状がなくなっても、すぐに服薬をやめると数カ月で再発します。しばらくは維持量(2日に1錠)を服用しますが、維持量になるまでに、早い人で1年以内、長い人で3年以上かかります。

  • 7治療を開始してから約2年後

    抗甲状腺薬治療の中止の見通しが立たないときは、このまま薬をつづけるか、それともほかの治療法に切りかえるか、主治医と相談してください。

維持量の服用期間は6カ月ほど

維持量を6カ月ほど服用すると、甲状腺のはれが小さくなって、甲状腺ホルモンやTSHの数値が正常に保たれます。TRAbが低下すると、「寛解」に入ったと予測されますが、服用を中止する時期については非常にむずかしい判断が必要です。

服薬を中止できるのは、抗体が低下してから

服薬機関は人によって差があり(喫煙の有無なども関係)、10年以上飲みつづける場合もあります。ただ、寛解しにくい人でも、自分の状態に合った量を忘れずに服用していれば、日常生活は支障なく過ごせます。

薬をやめても、6カ月に1度は血液検査を

薬を中止すると、TRAbが陰性の人で30%、TRAbが陽性の人では55~90%が再発するといわれています。この場合は、初めから薬を増やして治療のやり直しですが、すぐ治療を再開したほうが回復も早くなります。再発を早く見つけるためにも、定期的なチェックが必要です。

医療法人社団金地病院