橋本病は、甲状腺がじわじわと破壊され、ホルモンがつくられなくなる病気です。甲状腺ホルモンは“元気の源”となるホルモンで、これが少なくなるわけですから、心身ともに活力が失われ、非常に疲れやすくなります。
ただし、ホルモン不足の程度は人によって差があり、症状のあらわれ方も人さまざま。体だけでなく精神面にも影響し、症状は多様です。

代謝が悪くなりむくむ、太る

甲状腺ホルモンには、新陳代謝を高める働きがあり、このホルモンが不足すると、体中のさまざまな物質を代謝する力が弱くなります。

●むくむ

体内の水分が汗となって外へ排出されず、体の中にたまってくるので、体中のさまざまな部位がむくむようになります。
・皮フの下の組織 
ムコ多糖類(ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸など)が大量にたまり、むくんではれ上がり「粘液水腫(ねんえきすいしゅ)」の状態になります。
・顔
むくみのため、まぶたがはれて目が細くなります。唇や皮フも厚ぼったくなり、ボーッとした橋本病特有の顔つきになります。
・舌
むくんで肥大すると、舌がもつれて、ろれつの回らない話し方になります。
・粘膜
口の中の声帯や咽頭(いんとう)の粘膜がむくむことがあり、声がしわがれて、低くなります。

●太る

あまり食べないのに、体重が増えてきます。カロリーがうまく消費できない上、余分な水分がたまってむくむためです。

●コレステロール値が上昇する

体内でコレステロールが分解される速度が遅くなるため、血液中の濃度が高くなります。

バセドウ病がエネルギーを必要以上に消費してしまう「燃焼型」だとすると、橋本病は「不燃型」。エネルギーをうまく燃やせなくなります。
代謝力が低くなると、皮フや毛髪まで生気をなくし、全身が年齢より老けた印象になります。

●寒がりになる

エネルギーが燃やせないため、熱をつくり出す力が弱まり、体温が低くなります。冷えはなかなか解消しないため、バセドウ病とは逆に、冬が苦手になります。

●汗をかかない

代謝が悪く、体温が低いため、汗をかく力が弱くなります。

●皮フが乾燥する

汗をかかないため、皮フはうるおいやつやをなくしてカサカサになります。これが進むと、白く粉をふいたようになることも。

●皮フが蒼白になる

血管が収縮し、血流が減少するため、皮フは冷たく蒼白となります。貧血は、橋本病の人の10%程度に見られます。

●毛が抜ける、薄くなる

頭髪がバサバサになって抜けたり、眉が薄くなってきます。

心臓や腸など、内臓の働きが弱まる

甲状腺の機能が低下すると、全身の臓器の働きが衰えていきます。中でも心臓や腸には、バセドウ病とは正反対の症状があらわれます。

●脈がゆっくり、静かになる

心臓の働きが弱まり、バセドウ病の頻脈(ひんみゃく)とは逆に、「徐脈(じょみゃく)」になります。脈拍は、1分間に60以下と少なくなります(正常な場合は70~80程度)。
心臓を包む袋(心嚢(しんのう))に心嚢液がたまり、むくんで大きくなることもあります。

●便秘になる

甲状腺ホルモンには、腸の蠕動(ぜんどう)運動を促す働きがありますので、これが不足すると腸の働きが弱まり、便秘になります。バセドウ病が下痢ぎみになるのとは対照的です。

卵巣の機能にも影響し月経過多や流産も

甲状腺ホルモンは卵巣の機能にも影響しますので、甲状腺機能が亢進しても低下しても、月経の異常が起こりやすくなります。
甲状腺機能低下症では、月経量が多くなりますが、病気が進むにつれ期間が長くなったり、間隔があいて(月経不順)重症になると、無月経になります。
また、甲状腺ホルモンが不足していると排卵がなくなったり、流産することがあります。ただし、このようなトラブルは、いずれも無治療の場合で、きちんと治療していれば心配はありません。
妊娠を希望する女性は、胎児や妊娠継続に影響するので、一度は甲状腺の機能検査を受けてチェックすることをおすすめします。

血液の循環が悪くなり筋力が落ちて、足がつる

甲状腺ホルモンが不足すると血液の循環が悪くなり、筋肉にも影響します。筋力が落ちて、つりやりやすくなるのです。
特に運動をしたわけではないのに、ふくらはぎなどが急に「こむらがえり」を起こします。腰のまわり、腕、首のまわりなどがつることもあります。

脳の働きがおとろえ無気力や、もの忘れなど

甲状腺ホルモンは、脳の細胞が働くように作用しますので、ホルモンが不足すると、精神・神経面の動きもにぶくなります。

●もの忘れ

記憶力が低下し、もの忘れが多くなったり、考える力が落ちてきますが、こういった症状は治療をすればよくなります。
軽い橋本病の人に対して、甲状腺ホルモン薬で治療したあとに、計算力や記憶力、状況認識などをチェックしたところ、改善が見られたという報告もあります。

●意欲の低下

何かをする意欲や気力が失われます。動作も緩慢(かんまん)になり、何事もおっくうがって、ものが片づけられないなど、日常生活にも支障が出てきます。

●眠たがり

朝の寝起きが悪く、昼間もうつらうつらとして、乗り物の中でもどこでも居眠りをするようになります。

●うつ、認知障害

精神・神経症状がきわだってくると、精神科の医師でもうつ病や認知症と誤診し、精神安定剤などを処方してしまうことがあります。しかし、機能低下症の人は全身の代謝力が衰えているため、少量の薬でも効きすぎて、昏睡(こんすい)状態に陥ることがありますので、要注意です。

医療法人社団金地病院