甲状腺細胞が壊れ、ホルモンの蓄えが漏れ出る

「無痛性甲状腺炎」は、原因は不明ですが、甲状腺の細胞が炎症によって破壊され、細胞内に蓄えられているホルモンが一気に漏れ出してしまうために起こる甲状腺中毒症です。
亜急性甲状腺炎と似ていますが、無痛性甲状腺炎の場合、炎症の原因がウイルス感染ではなく、自己免疫とされています。痛みや発熱はありません。
橋本病を持っている人がなりやすいのですが、橋本病ではない人や、バセドウ病が治った人でも起こることがあります。
出産後にもよく見られるため、以前は“産後甲状腺機能亢進症”と呼ばれることもありました。現在では、出産にかかわらない女性や、男性でも起こることがわかってきています。
比較的よくある病気で、甲状腺機能亢進症だと思って病院を訪れる人の5~10%は無痛性甲状腺炎であるといわれています。

バセドウ病とまちがえられやすい。違いの見きわめが重要

無痛性甲状腺炎は、バセドウ病と同じように、甲状腺ホルモンが過剰になるため、特有の症状があらわれます。
バセドウ病とまちがえられるケースが多いのですが、両者はまったく別の病気で、治療法も異なりますので、見きわめることが重要です。

首のはれや、眼球突出はない

無痛性甲状腺炎であらわれる症状は、動悸、頻脈(ひんみゃく)、疲労感、体重減少、暑がり、汗が多い、集中力がなくなるなど、バセドウ病に似ていますが、違いもあります。
無痛性甲状腺炎では、首のはれが目立たないことが多く、比較的かたい感じです。また、眼球突出もありません。
これは、バセドウ病と区別するときの目安になります。

ヨウ素摂取率で確実にわかる

症状だけでは、バセドウ病なのか無痛性甲状腺炎なのかを鑑別することは、専門医でもむずかしい面があります。
もっとも確実な鑑別法は、ヨウ素摂取率の検査です。放射性ヨウ素を飲んだあと、シンチグラム写真を撮って、甲状腺にヨウ素がどのくらい取り込まれるかを調べます。バセドウ病では30~80%と高い摂取率を示しますが、無痛性甲状腺炎ではほとんどゼロなので、一目で違いがわかります。
しかし、ヨウ素摂取率検査ができる医療機関は限られています。そのため、超音波(エコー)検査で血流の増加が認められなければ、無痛性甲状腺炎と判断します。これは鑑別診断法の一つとなります。

治療なしでも数カ月で回復

甲状腺には、約2カ月分のホルモンが蓄えられています。無痛性甲状腺炎になると、このストックが漏れ出るのですが、ストックがなくなれば止まります。
次に、ホルモン不足の状態になり、しばらくは甲状腺機能低下症の症状があらわれますが、その状態も過ぎると正常になります。
ホルモン過剰の時期は2カ月程度。ホルモン不足の時期は1カ月から、長くても数カ月です。
つまり、無痛性甲状腺炎の症状は一過性で、いずれは自然に治ることが多いため、抗甲状腺薬は服用せず、基本的に治療の必要がない場合も多いのです。
気管支ぜんそくがなく、動悸などの症状があるときは、ベータ遮断薬を使います。
しかし、無痛性甲状腺炎は、半年から、ときには10年くらいの間隔をおいてくり返す傾向があるため、注意が必要です。

医療法人社団金地病院