副甲状腺ホルモンはカルシウム代謝の調整役

副甲状腺は米粒大ほどの臓器で、最小の内分泌腺です。甲状腺の裏側に左右上下1つずつ計4つあり、甲状腺ホルモンとは別の副甲状腺ホルモン(PTH)を分泌しています。PTHは、主にカルシウム代謝にかかわるホルモンで、甲状腺から分泌されるカルシトニンというホルモンやビタミンDと連携しながら、血液中のカルシウム濃度を調整します。
PTHは、血液中のカルシウム濃度が低くなると、骨に蓄えられているカルシウムを取り出したり、腸からのカルシウム吸収を促し、血液中のカルシウムを増やすように働きかけます。PTHは、血液中のカルシウム濃度を上昇させるホルモンなのです。
一方、カルシトニンは、逆に血液中のカルシウム濃度が高くなると、骨からカルシウムが溶け出すのを抑えるように働きます。
血液中のカルシウムは、濃度を高めるPTHと、下げるカルシトニンの2つのホルモンが、相互に働くことで一定に保たれているわけです。

PTHが過剰につくられる「副甲状腺機能亢進症」

血液中にはカルシウムが十分あるにもかかわらず、PTHが必要以上に分泌されるのが、「副甲状腺機能亢進症」です。
PTHが過剰になるため、骨や小腸などからのカルシウム吸収が高まり、血液中のカルシウムが増えて、「高カルシウム血症」になります。
副甲状腺機能亢進症は、以前はまれな病気と考えられていましたが、血液検査の技術が進み、見つかるケースが増えています。閉経後の女性に多く、50歳以上では1000人に1人の頻度で起こると考えられています。

原因

副甲状腺に良性腫瘍(まれに悪性腫瘍)ができて、それがPTHをつくりすぎることが原因となります(原発性)。
まれに、腎臓病で人工透析を行っている場合など、二次性の原因で起こることもあります。

症状

初期は、ほとんど症状がないのですが、病気が進むと次のような症状があらわれてきます。

  • 大量のカルシウムが尿へ排泄され、腎結石ができたり、腎機能が低下します。多尿のため口が渇(かわ)き、水を多く飲むようになります。
  • 骨や歯からカルシウムが抜けるため、骨粗しょう症になりやすくなります。
  • 食欲不振や吐き気などの消化器症状や、筋力低下などに悩まされることもあります。重症になると、集中力の低下や、うつ状態、意識障害などがあらわれることもあります。
検査・診断

血液検査と尿検査を行い、血液中のカルシウム濃度と副甲状腺ホルモン量の両方が高く、尿中カルシウム排泄量が高い場合、副甲状腺機能亢進症と診断されます。

治療

病気の副甲状腺の一部、あるいは過形成(かけいせい)では全部を切除する手術を行います。術後は、一時的に血中カルシウム濃度が低下しますが、数週間で正常になります。

血中カルシウム濃度が低下する「副甲状腺機能低下症」

副甲状腺機能低下症では、副甲状腺機能亢進症とは逆に、PTHがうまく作用せず、血液中のカルシウム濃度が下がって「低カルシウム血症」になります。
また、PTHには、血中カルシウム濃度を上昇させるだけでなく、リンの濃度を低下させる作用もあります。その作用がきかなくなるため、血液中のリンの濃度は上がります。
なお、副甲状腺機能低下症は、機能亢進症ほど起こる頻度は高くありません。

原因

PTHの分泌そのものが少ない場合と、PTHの分泌は正常にもかかわらず、PTHが働きかける骨や腎臓の受容体に異常があるため、ホルモン作用が発揮できない場合とがあります。
PTHの分泌低下は、手術などで副甲状腺がなくなるために起こることもありますが、多くの場合、原因のわからない特発(とくはつ)性副甲状腺機能低下症です。

症状

血液中のカルシウム濃度が低くなると、神経や筋肉が興奮しやすくなります。

  • 典型的な症状は、テタニー症状です。痛みをともなった筋肉のけいれんで、手指や足のこわばり、顔のひきつれ、手指やくちびるの周囲のしびれなどがあらわれます。これが進むと、全身のけいれんを起こし、てんかんとまちがえられることもあります。
  • 情緒不安定、不機嫌、不安感、イライラ感などの精神症状をともなうこともあります。
  • 白内障を合併して視力が低下したり、皮膚や爪、毛髪などに異常が起こることもあります。
検査・診断

テタニー症状があるかどうかをチェックし、血液検査でカルシウム濃度の低下とリン濃度の上昇があれば、副甲状腺機能低下症と診断します。

治療

活性型ビタミンD剤を服用します。けいれんやテタニー症状が頻発する場合は、カルシウム注射を行うこともあります。
薬は、分泌されなくなったPTHのかわりになるものですから、一生服用をつづけます。

高カルシウム血症であらわれる症状

全身症状 脱水、倦怠感、疲れやすさ
消化器症状 吐き気、嘔吐、食欲不振、消化性潰瘍、膵炎など
神経・筋症状 集中力低下、筋力低下、うつ状態、意識障害など
尿路系症状 口の渇き、多飲・多尿、腎結石、腎機能の低下
その他 骨粗しょう症、関節痛、皮膚のかゆみなど

低カルシウム血症であらわれる症状

テタニー症状 手・足・口唇のしびれ感、全身のけいれん、クボステーク徴候(顔の筋肉のけいれん)、トルソー徴候(手指のしびれやこわばり)
中枢神経症状 イライラ、記憶力低下、錐体外路症状(不随意運動)
消化器症状 腹痛、吐き気・嘔吐など
呼吸器症状 ぜん息、呼吸困難など
その他 白内障、皮膚の乾燥、色素沈着、毛髪がバサバサ、爪が弱くなる
医療法人社団金地病院