成長・発達を遅らせる子どもの「甲状腺機能低下症」

甲状腺ホルモンは、子どもの成長には欠かせないホルモンです。これが不足する機能低下症は、発育や発達に深刻な影響をおよぼします。
たとえば、先天性の甲状腺機能低下症「クレチン症」は、知能の発達が遅れ、知的障害が問題となる病気です。
現在は、新生児マススクリーニング検査が実施され、早期発見・早期治療が行われるようになっているために、ほとんど心配はありません。
元来、子どもが甲状腺の病気になることはあまりありません。
ただ、非常にまれですが、子どもにも甲状腺機能低下症が起こることがあります。先天性のものではなく、発育の途中で発症するのです。
病気に気づくポイントは、身長の伸びの遅れです。小学校入学時になっても、身長が1メートルに満たないような場合は、注意が必要です。
早めに甲状腺専門医に診断してもらうようにしてください。
治療は早いほど効果があり、発育の遅れを取り戻すことができます。

思春期の女子に多い首のはれ「甲状腺腫」

中学、高校くらいの女の子には、よく首がはれている人を見かけます。
これは「単純びまん性甲状腺腫」といって、症状は首のはれだけという場合がほとんどです。思春期の女子に多いため、「思春期性甲状腺腫」と呼ぶこともあります。
何らかの原因によって甲状腺ホルモンが不足するようになり、それを補うために、甲状腺が肥大すると考えられます。
甲状腺ホルモンの機能は正常で、腫瘍や炎症もないため、特に治療の必要はありません。
首のはれも一時的なもので、治療をしなくても、成長するうちに自然に消えます。
ただし、定期的に血液検査や超音波(エコー)検査を行って、ホルモンの機能や腫瘍の有無をチェックする必要があります。
単純びまん性甲状腺腫は、将来バセドウ病や橋本病などになる可能性があるためです。
あまり心配しなくてもよいのですが、周囲の家族が気を配り、経過を見守ってあげることは必要です。

強い痛みや発熱がある「急性化膿性甲状腺炎」

細菌に感染し、甲状腺やその周囲に炎症が起こる病気です。小さな子どもに見られる病気ですが、おとなにもあります。

原因

生まれつき、のどの奥に、下咽頭(かいんとう)から甲状腺に向かって通る細い管(下咽頭梨状窩瘻(りじょうかろう))を持っている人だけが発症します。
この管に細菌が入り込んで、感染するのです。

症状

のどの片側(左側がほとんど)の痛みやはれ、発熱が主な症状で、特に、食事や水などを飲み込むときに強い痛みがあります。炎症部位の皮膚も発赤(ほっせき)してきます。
症状が似ているため、亜急性甲状腺炎とまちがえられることがあります。

治療

軽症の場合は、抗生物質で治療します。膿瘍ができている場合は、手術で摘出します。また、再発をくり返す場合にも、管をふさぐ手術が必要になります。

子どもの「バセドウ病」はおとなとは違うあらわれ方をする

子どものバセドウ病は、おとなほど多くはないとされています。
たしかに、10歳以下での発症は少ないのですが、小学校高学年から中学、高校と進むにつれ、だんだん増えてきます。
ただし、子どものバセドウ病は、おとなの場合とは症状のあらわれ方に違いがあります。
おとなのような体の症状(眼球突出、体重減少など)が少なく、情緒や行動面に変化があらわれます。

情緒不安定や集中力の低下

イライラして情緒が不安定になりますが、自分でもなぜそうなるのかわからず、家族にうまく伝えられずに孤立感を深めます。
集中力が低下し、落ち着かず、成績も下がりがちです。友だちとの人間関係もうまくいかなかったり、易(い)疲労感、動悸などもあり、運動もつらいので、不登校になる子どももいます。

叱咤激励より、理解すること

この年代はもともと情緒が不安定になりがちですので、家族も、そのうちよくなると見過ごしたり、逆に怠けていると叱咤激励(しったげきれい)したりすることがあります。
しかし、成績が急に下がったり、性格が変わったり落ち着きがなくなったりしたら、その背景に、もしかすると病気が関係しているのではないかと疑ってみましょう。
バセドウ病は、体だけでなく、精神面にも影響する病気です。原因がわからない場合は、一度甲状腺の専門医を受診してみることをおすすめします。
原因がバセドウ病とわかれば、学校の先生と連絡を取り合い、病気を理解してもらうことも必要です。
治療の効果が出て、病気が回復してくれば(約2カ月ほど)、精神的にも落ち着くようになり、集中力も出てきます。成績も元に戻ってきて、見違えるほど元気になります。

医療法人社団金地病院