異常な自己免疫反応がホルモン分泌を乱す

甲状腺の病気がなぜ起こるのか、はっきりとした原因はいまだに解明されていません。
ただし病気の成り立ちから見ると、バセドウ病と橋本病には、明らかに自己免疫がかかわっています。甲状腺の病気の半数以上は、自己免疫疾患です。

免疫とは?自己免疫とは?

自分の体に、細菌やウイルスなどが外部から侵入しても、これを攻撃・排除して病気にならないように体を守るしくみが免疫です。
外から入ってくるウイルスなどの外敵を「抗原(こうげん)」、それを攻撃して排除する物質を「抗体(こうたい)」と呼びます。
免疫とは、血液や体液中に存在するリンパ球が、おかしなものがあると異物(いぶつ)(自分のものではない非自己)かどうかを見きわめ、異物であれば抗体をつくって排除するように働くしくみなのです。
しかしときには、存在するのがあたりまえの自分の細胞や成分の認識をまちがって異物とみなして、それに反応する「抗体(自己抗体)」をつくってしまうことがあります。
自分の体の中の細胞や成分に対する抗体を「自己抗体」と呼び、認識をまちがえて起こる病気を自己免疫疾患といいます。

自己抗体が甲状腺を攻撃

バセドウ病の場合は、甲状腺細胞にあるTSH受容体に対する自己抗体(抗TSH受容体抗体、TRAb)ができ、このTRAbがTSHにかわって甲状腺を刺激しつづけ、甲状腺ホルモンがどんどんつくられてしまいます。
また橋本病の場合は、甲状腺の細胞が抗原になり、これを攻撃する自己抗体(抗サイログロブリン抗体TgAb、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体TPOAb)ができます。この自己抗体が甲状腺に慢性の炎症を起こし、組織を破壊していくため、甲状腺機能低下症になっていきます。

遺伝はどこまで影響するか

このような自己免疫反応には、遺伝とのかかわりも考えられます。
バセドウ病や橋本病は、病気になりやすい体質が遺伝することがあります。だからといって、必ず発病するわけではありません。甲状腺の病気は、特殊な場合を除き、原因となる遺伝子はいくつもあるといわれ、そこに年齢、環境など複数の要因が重なり合ったときに発病するのです。
デンマークの双生児研究報告によると、遺伝子の配列がそっくり同じ一卵性双生児の場合、一方がバセドウ病になっても、もう一方が発病する確率は約35%程度。たとえ病気になりやすい遺伝子を受け継いでいるとしても、それだけで発病するケースはわずかです。

環境的な因子が免疫系に影響

環境的なリスク因子も、発病の引き金になるといわれています。
バセドウ病では、遺伝的な素質があり、そこにウイルス感染や、花粉症などのアレルギー、ストレス、喫煙など環境因子が加わったとき、免疫系が異常に働いて自己抗体がつくられ、発病すると考えられています。

医療法人社団金地病院